推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
33.ハッサン・サラーの反逆  “A CASE OF IMMUNITY”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 中近東の伝統服を着たハッサン=サラーが総領事館のオフィスにいる。

DVDチャプターリスト

(1)売国奴サラー (2)“外国”での捜査 (3)ハビブの行方 (4)免許の条件 (5)60万ドルは・・・? (6)王様のキッチン (7)国務省のへの苦情 (8)警部と正装パーティ (9)スアリの裁き

犯行の動機

 中近東スワリ王国では勢力争いがおこっており、同国総領事館の総領事代理のハッサン=サラー(犯人)は、邪魔者である警備隊長ユセフ=アラファ(第1被害者)をほうむりさる計画をたてる。それは、総領事館の職員ロッホマン=ハビブ(第2被害者)をそそのかし、過激派グループの犯行に見せかけるというものだった。

コロンボはいつどこでピンときたか

 ハビブの遺体が安置された死体公示所(morgue)で、眼鏡とともにコンタクトレンズを見つけたとき。
 コロンボは、われた眼鏡のかけらのような物を見つけた。顔をちかづけてよく見ると、それはコンタクトレンズだった。ハビブは、車を運転していたときコンタクトレンズをしていた。それなのに眼鏡もかけていた。両方つけていたら何も見えないはずである。眼鏡は、ハビブがコンタクトレンズをしていたことを知らなかった誰かがかけたにちがいない。ハビブは他殺である。
 その後、総領事館でサラーに会って確認したところ、彼は、ハビブがコンタクトレンズをしていたことは知らなかった。サラーが犯人である。

犯行を裏付ける事実

 殺害された警備隊長ユセフは銃をぬいていなかった(金庫が爆発する前に、何の警戒心もなしに現場のオフィスに入った)。ユセフは頭の後ろをなぐられており、格闘の跡はまるでない(よほど気をゆるした相手に出しぬけにやられた)。金庫が爆発したときに天井からおちてきた漆喰の粉が、金庫の周囲にも、金庫から出されて燃やされた機密書類の上にもつもっていた(機密書類は、金庫が爆発される前に金庫から出され、燃やされていた。犯人は金庫の番号を知っていた。 犯人は内部の人間である)。サラーは金庫の番号を知っていた。
 ハビブが車でゲートから逃げて行ったとき、ガードマンはライフルで撃とうとしたが、その日にかぎって弾が入っていなかった。サラーは、ゲートのガードマンが所有するライフルを管理する部屋の鍵をもっていた。
 ハビブがもっていた1万ドルは総領事館の金庫からとったものではなかった(事件の翌日に銀行から払い出された金だった)。ハビブが、ニューヨークのホテルを予約したとされる時刻には、ハビブは領事館の暗号室に缶詰になっていた(ホテルを予約したのは別人である)。
 殺害されたユセフは、事件当日午後3時すぎに、コーヒーを自室に持ちかえったがまったく飲んでいなかった(事件現場によびだされ、もどってこなかった)。サラーは、ユセフが自室から電話をかけてきたと言ったが、ユセフからサラーに電話があったとされる4時5分前に、実際にはユセフは自室にいなかった(サラーのアリバイはくずれる)。
 修理に出されていた総領事館の車のメータが51キロふえている。ハビブが殺害された現場との往復距離がちょうど51キロだった。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 総領事館のオフィスでコロンボとサラーがうちとけたようにかたりあっている。
「警部、君はよくやった。謎は解いたのだ。それに満足してひきさがることだ(Lieutenant. Do not despair. You have unraveled the puzzle, and let it be)」(サラー)
「あんた外交官特権ってやつで逮捕されないっていう保証があるから、簡単にペラペラしゃべったんでしょーぉ(I got the feeling that you wouldn’t be so expansive, if you wouldn’t be so quick to admit all this, if you didn’t have diplomatic immunity)」(コロンボ)
「それもあるかもしれないね。事実、私は外交官特権をもっているんだから(Perhaps so, Lieutenant. But the fact is I do have diplomatic immunity)」(サラー)
「そうだろうか。ハッサン=サラー(Quite so, Hassan Sallah)」(国王)
 突然、となりの部屋からスワリ国王が入ってくる。サラーはおどろいて立ちあがる。国王はサラーの話をすべて聞いていたのである。国王は、コロンボの提案により、サラーには帰国したように見せかけたが、ヘリコプターで総領事館まで先回りしてもどっていたのである。
 帰国してスワリ王国の裁きをうけよという国王の言葉に対し、サラーは、外交官特権を放棄し逮捕に応じると言いだす。スワリ王国の裁判では首をはねられてしまうからである。

解説:現実的な問題解決

 サラーは治外法権下にあり外交官特権をもっている。それにくわえて、国務省の意向から、スワリ王国との友好関係を優先しなければならない。コロンボは、犯人はサラーだとわかっているが、このような特別な状況下で、現実的視点を重視して事件を解決しなければならなかった。いつもとちがいコロンボの行為は大幅に制限されてしまっていた。
 そこでコロンボはサラーの立場にたってかんがえた。コロンボの立場にたつと、外交官特権があるのでサラーは逮捕できないとなるが、サラーの立場にたつと、外交官特権をもっているので逮捕されないとなる。サラーは、逮捕されないとわかっているのだから、状況さえうまく設定すれば、調子にのって真実をみずからしゃべるはずだという読みがコロンボにはあった。
 そして、サラーの話を国王に直接きかせたという訳である。
 この事件解決には、コロンボがあらかじめ国王の信頼を得ていたということが前提になっている。コロンボは、総領事館に国王がおとずれたときすぐに挨拶に行った。コロンボは国王の人格をたしかめ、友好関係をきずこうとした。このようなプロセスに、コロンボの人なつっこい人柄や人間性がにじみでている。コロンボは個人的に能力が高いだけでなく、人徳ももちあわせている。
 そして、その国王との共同作業で事件を解決することができた。おもわぬところに活路はあったのである。
 特別な条件下で、コロンボは、逮捕という固定観念にとらわれず、あくまでも事件を解決する、事件をおわらせることに目標をしぼっていた。サラーが、アメリカの法にもとづいて裁きをうけるか、スワリ王国の法にもつづいて裁きをうけるかは、このケースでは重要でなかった。
 このように、このエピソードには、コロンボの推理もさることながら、彼の現実的な問題解決の手腕がよくあらわれている。事件を解決するとは問題を解決することであり、頭が切れるだけでは、推理はできても問題解決はできない。推理や犯人との対決は、それ自体が目的なのではなく、このような問題解決のためにおこなわれるのである。
 また問題解決は、法律という前提や実社会の枠組みという現実の条件下でおこなわなければならない。これをクリアーするために、コロンボは、実に見事な状況設定や場づくりをおこなった。問題解決には場づくりが必要である。


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2005年12月25日発行
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