推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
30.ビデオテープの証言  “PLAYBACK”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ハロルド=ヴァンウィックが、ヴァンウィック邸のビデオ室に入る。

DVDチャプターリスト

(1)メカ・マニアの家 (2)殺人プレイバック (3)警部は風邪気味 (4)“あと90センチ”の死角 (5)腐葉土の問題 (6)“空調の換気口です” (7)椅子の上の問題 (8)犯行時刻をつかむ手がかり (9)二本のビデオテープ

犯行の動機

 ミダス電子工業の会長・マーガレット=ミダス(被害者)は、娘婿で同社社長のハロルド=ヴァンウィック(犯人)の経営手腕にかねてから不満をもっていた。マーガレットは同社の下半期の決算書を見て、会社の利益が急速におちこんでいることを知り、彼には社長を辞任してもらい、息子のアーサー(娘エリザベスの弟)を社長にすると言いだす。
 しかし、ハロルドは社長をやめる気など毛頭なく、マーガレットを殺害する計画をすでにすすめていた。

コロンボはいつどこでピンときたか

 食堂で、ランチをとりながらフットボールのテレビ中継を見たとき。
 中継では、スローモーションによるビデオ再生がおこなわれ、選手の動きが細部までよく見える。この瞬間、マーガレットが殺害されたところを撮影したビデオも、再生して細部をよく見直せば、何かが発見できるはずだとピンとくる。その何かにより犯行時刻が特定できれば、ハロルド(犯人)のアリバイをくずすことができる。

犯行を裏付ける事実

 ハロルドは、普段は口頭で、ゲートのガードマンに行き先をつげるが、事件の夜にかぎって、行き先を雑誌に書いてわたしていた。犯人は、事件のあったヴァンウィック邸から何もぬすんでいなかった。
 犯人が侵入し退去したとおもわれる窓の下の地面に、窓からとびおりたときにできる足跡がない。犯人が窓から部屋に侵入したとすれば、靴についていたマルチ(土の乾燥をふせぐもの)が部屋の床におちたはずであるが、床はよごれていない。ハロルドがパーティ会場に到着した時刻を受付嬢がずいぶん正確に記憶している(アリバイをつくるためにハロルドは時計を見せた)。
 ビデオテープの録画をつかえばガードマンをだますことができる。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、マーガレットが殺害されるところを撮影したビデオテープの映像と、それ以後のガードマンが入ってきてから撮影されたビデオテープの映像を、2つのモニターに同時にうつしだす。そして、画面の右にうつっているデスクの上をよく見ると、マーガレットが殺害される様子をうつした映像にだけは、何かあかるい色の物がうつっている。そこを拡大してたしかめると、それはハロルドへの画廊の招待状であった。ハロルドの名前もちゃんと書きこまれている。この招待状は、殺人があった夜にハロルドが画廊の会場受付に出したものである。ところが同じものが殺人直後のデスクの上においてある。
 このことは、ハロルドが家を出る前にマーガレットはすでに殺害されていたことをしめしている。つまり、マーガレットが殺害されたときに、ハロルドはまだ家の中にいたのであり、ハロルドがマーガレットを殺害したことになる。
 ヴァンウィック邸でハロルドみずからが撮影したビデオテープの映像が決定的な証拠となった。ハロルドは、巧妙なトリックで完璧なアリバイをつくりあげたはずだったが、重大なミスをおかしてしまった。コロンボは彼のミスを見逃さなかった。

解説:似たものを見てピンとくる

「フットボールの試合でビデオテープを再生するのを見ましてね、ピーンときたんです(I happened to be watching a football game on TV, and they did one of those taped replays. That’s when it hit me)」(コロンボ)
 このエピソードでは、コロンボがいつピンときたかをコロンボ自身が直接かたっている。いつピンとくるかは事件解決にとってもっとも重要な瞬間であり、事件解決の急所と言ってもよい。ここでは「ビデオテープの再生」が急所になっている。ピンとくるためには、似ていることに気がつくことが重要である。フットボールの再生と殺人事件の再生には類似性がある。コロンボは、異なるものの中に類似な現象を見いだしている。コロンボの頭の中では、似たもの同士あるいは似た現象同士がむすびつく、あるいは類似な情報が結合するといったことがおこっているようである。
 さらにつけくわえるならば、ピンとくる前の段階として、疑問をいだく段階と実験により手掛かりをえる段階があった。
「あたし、悪い癖があってね。人が普段とちがうことやると何かあるんじゃないかとすぐおもっちゃってね(I got this funny habit. You know when a person does something one way, and he suddenly does it another way, I immediately think…)
 ハロルドの事件当夜の行動を、ゲートのガードマンからから聞いたときにコロンボは最初の疑問をいだいた。
 つぎに、事件があったヴァンウィック邸で、
「実験です。テスト。どっかにとっかかりを見つけませんとね。何しろ今、まったく手掛かりなしなんで(That’s an experiment sir, a test. I just have to start somewhere on this thing. You see I can’t seem to get a handle on it)」
 コロンボは1階で銃声をひびかせ、それによって2階の寝室のドアがひらくことを確認し、事件当夜、ハロルドの妻エリザベスが実際に銃声を聞いていたことを証明した。
 このように、しっかりと段階をふんで捜査をすすめていたことが前提になって、その上で、類似性に気がついてピンとくる瞬間がもたらされたと言える。ピンときたのは単なるおもいつきではなかったのである。


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2005年12月25日発行
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