推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
14.偶像のレクイエム “REQUIEM FOR A FALLING STAR”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ノーラ=チャンドラーが、パークス邸のガレージにガソリンをまく。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル/秘書の結婚相手 (2)コロンボ登場 (3)誤認殺人 (4)大女優のゴシップ (5)コロンボのネクタイはセンス最悪!? (6)否定された殺人の動機 (7)本当に狙われたのは誰か? (8)偶像のレクイエム (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 ゴシップ専門のコラムニストであるジェリー=パークスは、往年の大女優ノーラ=チャンドラー(犯人)が200万ドルの損失を映画制作会社におしつけた事実を知り、それをネタに彼女をゆすっていた。
 さらにこまったことに、ノーラの秘書のジーン(被害者)がそのゆすり屋パークスと結婚すると言いだした。ジーンは、ノーラのことは何も話さないとちかうが、そうは言っても、ジーンとパークスが結婚してしまえば自分の秘密があばかれてしまうにちがいない。ノーラは警戒する。
 その夜、パークス邸にもどってきたパークスの車が爆発する。しかし、その車にのっていたのはノーラの秘書ジーンであった。

コロンボはいつどこでピンときたか

(1)パークス邸の書斎で、ノーラの「他のネタ」をパークスがほのめかしたとき。
 そのときノーラはおもわず酒をのもうとした。彼女は普段は酒は飲まないが、精神的においつめられたときには飲むという。彼女には、何かほかに秘密があるのではないだろうか。その秘密を秘書のジーンが知っていて、ジーンとパークスが結婚することによって、それがパークスにもれるのをノーラはおそれたのではないか。ジーンは人違いで殺されたとかんがえられていたが、そうではなく、はじめからノーラがジーンをねらったのではないだろうか。
(2)ノーラ邸で、ノーラの主演映画をテレビで見たとき。
 コロンボはノーラ邸から弟(George)に電話したとき、弟は偶然、ノーラが出演している映画をテレビで見ていた。すぐにコロンボもテレビをつけて見ると、ノーラが、コートをきて帽子をかぶり男に変装している。ノーラの夫は、12年前に、海にボートをだしたままかえらぬ人となっていた。実は、海にボートをだした人物は男装したノーラだったのではないか。

犯行を裏付ける事実

(1)ジーンはノーラの秘書を長くやっている(ノーラのことはよく知っている)。ジーンの車はパンクしたのかとおもっていたら、実際には空気をぬかれたのだった。事件の晩のジーンの予定を知っていたのはノーラだけである。事件の晩に現場ちかくで目撃された小型車とおなじ型の車が撮影所にある。撮影所の車をつかってノーラは撮影所とパークス邸を往復することができた。犯人は車のそばにいた(運転手が見えたはずであり、人違いはありえない)。パークスが車にひき逃げされた(犯人は、ねらわれたのはパークスで、ジーンは人違いで殺されたということにしたがっている)。
(2)すでに財産はなくなっているのに、ノーラは自分のバンガローを決して売ろうとしない。ノーラのバンガローの庭の噴水からは水がでていない(配管工事をしていない)。噴水は、1960年9月16日、ノーラの夫が失踪した翌日に注文された。ノーラと夫とはほぼおなじ背丈であった(ノーラは彼に変装できた)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 パークスがひき逃げされた直後、コロンボは撮影中のノーラに会いにいく。そして、
「頭うって意識不明です。重体です。ひどいんだ。(Severe concussion. Still unconscious. Looks very bad… very bad)」
と嘘をつく。さらに、
「これがパークス氏の内ポケットに入っていたんです。封筒には“N.C.”と書いてありました(The ambulance driver found this in Mr.Paeks’ personal effects, in this envelope with the initials marked “N.C”)」
と言って、かりてきたTクラブ(Shriner)の指輪を封筒からとりだし、ノーラに見せる。ノーラは、イニシャルは自分とおなじだが、知らないと言う。コロンボは、
「意識がもどったらご報告します(I’ll tell you what he says)」
と言ってその場を立ちさる。
 コロンボが帰ると、ノーラは、自分のバンガローへむかって走りだす。そして部屋へとびこむと、一気に、庭の噴水へと近寄る。その時、部屋がパッとあかるくなる。ノーラは噴水をたしかめようとしたのであった。
「なぜ噴水の水が出ないか、その説明もつきます。水道の配管をするには、芝生をほりかえさなくちゃならないから(I have a possible explanation for why the fountain doesn’t run. In order to lay a water pipe, somebody would have to dig up the lawn, wouldn’t they?)」(コロンボ)
 つまり、ノーラは、噴水の下に亡夫の死体をうめていたのだった。実は、ノーラの秘書ジーンが殺された背後には、もっと大きな事件、ノーラによる夫の殺害があったのである。背後に完全にかくされていた殺人事件がこのとき突然うかびあがってきた。
「あなたがどう反応するか見たかった(I just wanted to see what you’d do)」(コロンボ)
 ノーラの今の行動は、亡夫の死体が噴水の下にうめられていることを明瞭にしめす結果となった。ノーラの亡夫は死亡する直前に、Tクラブ (Shriner)の指輪をつけて写真を撮影していた。ノーラは、パークスがもっていたという指輪は、夫がつけていたものと誤解したのだった。
 観念したノーラはみずから真相を話しはじめる。

解説:真相をほりおこす

 ジーンは人違いで殺された。これがこの事件の出発点である。しかし矛盾点がいくつも出てくる。ノーラのねらいは、パークスだったのか、それともジーンだったのか。誰もが混乱してくる。
 しかしコロンボは、ノーラの癖から、彼女の本当のねらいは最初からジーンだったということに気がつく。ここが第1のポイントであった。人違いに見せかけるとは巧妙なトリックである。
 しかし、なぜノーラはジーンを殺害したのだろうか。それは、ジーンが、ノーラの秘密を知っていたからにちがいない。
「その秘密の鍵は何か? その秘密は? “噴水” なぜ水がでないのか(“What is the secret,” see? “Key” “What is secret?” “Fountain” Why fountain doesn’t run)」(コロンボ)
 こうして、ノーラの夫殺しという、ジーン殺しの背後にかくされていた、もっと大きな事件があきらかになった。
 コロンボは、いくつもの断片的な事実をあつめ、それらを組みたてて真相をあきらかにした。コロンボは取材ノートとしてシステム手帳をつかい、そこに気がついたことを何でもメモしている。手帳に記録されたメモは仮説形成の手段として機能する。
 そして、最後のノーラの「反応」によりすべての謎が一気にとける。コロンボは、もっと奥底に長い間かくされていた真相を見事にほりおこした。
 この真相は、断片的情報を平面的にならべているだけでは決してあきらかにすることはできなかった。それは、目前の出来事の背後までふみこみ、奥ふかくほりさげてはじめて理解できる。しかも、そのふかい全体的な理解は、徐々に徐々にわかってくる現象ではなく、すべての断片がある一つの仮説に収束したその瞬間にもたらされる。あらたな仮説をたて、理解の次元を変えたそのとき、一瞬にしてすべてがわかるのである。
 ノーラは、庭の噴水の下をほりおこされることを絶対に阻止しようとしたが、コロンボは、断片と仮説により、奥底にかくされていた大きな真相を、見事にほりおこしたのだった。


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2005年12月25日発行
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