推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
12.アリバイのダイヤル “THE MOST CRUCIAL GAME”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ポール=ハンロンが、電話ボックスからエリック=ワーグナーに電話をかける。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル/完全犯罪 (2)コロンボ登場 (3)二代目社長の死 (4)ハンロンの疑惑 (5)盗聴されていた電話 (6)アリバイのダイヤル (7)完全犯罪の盲点 (8)あるはずの音 (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 アメリカンフットボールの人気チーム、「ロサンゼルス・ロケッツ」のゼネラルマネージャーであるポール=ハンロン(犯人)は、前オーナーのぼんぼん息子で現オーナーのエリック=ワーグナー(被害者)の行動に以前からあきれていた。エリックは大きな子供にすぎない。
 ハンロンは、世界最大のスポーツ王国をつくるために、エリックを排除してみずからが「ロサンゼルス・ロケッツ」支配する計画をたてる。

コロンボはいつどこでピンときたか

 コロシアムのハンロンのボックスに最初にやってきたとき。
 コロンボは、ハンロンにエリックが死亡したことをつたえた。そのときハンロンは、ゲーム中継のラジオの音を小さくした。どんな大事な話だろうとゲームの方が気になるようだ。
 ところが、プールサイドに水道水がまかれていたことから、エリックは殺されたのではないかと話すと、ハンロンは無意識のうちにラジオを切った。コロンボはここでピンときた。ハンロンがあやしい。

犯行を裏付ける事実

 ワーグナー邸のプールサイドをしらべていたら、プールサイドをぬらしていた水は、塩素がほとんどない水道水であり、プールの水ではなかった(誰かが水道水をそこにまいた)。
 ハンロンは、おいつめられると無意識にラジオをきる。自分のフットボールチームのミスが多かった前半戦の後、ハンロンの機嫌がなおっていた(変だ)。ハンロンは、空港の電話をつかって葬式の打ち合わせをしていた(不審な行動だ)。ワーグナー邸のちかくでアイスクリーム販売者を子供が目撃しているが、アイスクリーム会社はその場所に車をまわしていない。
 ハンロンは、自分のフットボールチームがピンチなときに電話をかけている(普通は、そんなときにはゲームに集中していて電話などしない)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボは、ハンロンが事件当日エリックにかけた電話を録音したテープをもって、コロシアムのハンロンのボックスへやってくる。そして、彼が電話をかけた時刻とおなじ2時29分、テープをまわしはじめる。
「あたしは、このテープをくりかえしくりかえし聞いたもんですよ。何か場違いな音が入ってないか。犬の声とか、自動車の音とか、このボックスにいちゃ絶対に聞こえない音がねぇ(You know, I listened to this thing, I can’t tell you how many times over and over again, figuring maybe I’d hear something that shouldn’t be there. Some sound that shouldn’t be there. An ambulance, the fire truck, or it could be in phone boosh, something…)」(コロンボ)
「そんな音は入ってないんだ。私はこのボックスからかけたんだ。この電話でな(But you didn’t because it isn’t there! I made the call from this booth, from that phone!)(ハンロン)
「ところが閃いたんだ。そう。逆だったんですよ(Then it suddenly occurred to me. Wap. I had it backwards)(コロンボ)
 そして、2時30分、時計のチャイムがなる。二人はふりかえり時計を見る。 
 テープには、チャイムの音は録音されていなかった。それは、ここにいたなら当然入っていなければならない音だ。それが入っていなかったのである。この瞬間、ハンロンがボックスにいたというアリバイは完全にくずれた。

解説:逆手の応酬

 コロンボは、エリックの死亡は殺人の疑いがあることをハンロンに話したとき、エリックが急にラジオを切ったのを見てピンときた。このことは、コロンボ自身がかたっている。
 こうして、エリックが犯人であるという仮説のもとで捜査がつづけられた。
 そしてコロンボは、ハンロンが、あたふたととびだして空港から電話をしたのは、オフィスの電話が盗聴され、録音されていることをあらかじめ知っていたからであることに気がつく。エリックの弁護士は、ハンロンの動向をさぐるために以前から盗聴器をしかけていたのだった。
 しかしハンロンは、自分のアリバイづくりのためにそれをうまく利用した。だから、エリックとの電話中に、ラジオのゲーム中継をながし、あたかもコロシアムのボックスにいるかのように見せかけたのである。
「問題はです。あなたが盗聴を知ってたとすると、それを“逆手”にとってアリバイづくりに利用できるっていうことなんです(The point is this. If you knew that house was bugged, then you also knew that you could use those phones to set up your perfect alibi)」(コロンボ)
 ハンロンのトリックの核心はまさにここにあった。盗聴を「逆手」にとったのである。ハンロンは、電話をかけたとき、余計な音が絶対に入らないように、しずかなところにある郊外の電話ボックスを慎重に選択した。録音テープには余計な音は入っておらず、アリバイづくりは完璧だった。コロンボは、録音テープをくりかえし聞いたが、アリバイくずしの手掛かりはえられなかった。
 しかし、コロンボが旅行会社に行ったとき、たまたま鳩時計が時刻をつげた。その瞬間、逆のことをおもいついた。何か余計な音が入っているにちがいないという観点に集中していたからダメだったのである。それとは逆に、入っているべき音が入っていないのではないか。そうだとすれば、ハンロンのボックスで音をだすものは何か。こうして時計のチャイムにゆきあたったのである。
 ハンロンは盗聴を「逆手」にとってアリバイをつくった。しかしコロンボは、ハンロンのやり方を「逆手」にとってアリバイをくずした。ここに「逆手」の応酬がみられた。
 人間は、そこに何があるのか、何か特徴的な物はないかとさがし物をするのは得意である。しかし、何がないか、何が欠けているかと、存在しない物を発見するのはむずかしい。そもそも、そういう逆の観点に気がつかない人の方が多い。
 欠けている物を発見するためには、対象だけをおいかけるのではなく、対象をとりまく状況や場をよく観察しなければない。視野をひろくし、枠組みを大きくとり、対象と周辺状況とを比較検討することにより、欠けている物があきらかになる。
 コロンボは、「逆手」の応酬により、欠けている物を発見し、それを見事に証明したのだった。


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2005年12月25日発行
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