推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
09.パイルD-3の壁 “BLUEPRINT FOR MURDER”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 エリオット=マーカムがビルの工事現場を監督している。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル/殺意 (2)コロンボ登場 (3)旅行か、失踪か、殺人か? (4)疑惑の建築計画 (5)ペースメーカーの疑問 (6)殺人の証明? (7)死体の隠し場所 (8)パイルD-3の壁 (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 建築家エリオット=マーカム(犯人)は、実業家ボー=ウィリアムソン(被害者)の妻ジェニファーを言いくるめ、ウィリアムソンの名を冠した近未来都市「ウィリアムソン・シティー」の建設を計画していた。しかし、ウィリアムソンには出資する気はなく、計画を中止させようとする。しかもウィリアムソンは、もし自分が死んでも、自分の遺産は信託になり、妻は年金でくらすことになるので、計画にだせる金はないとつけくわえる。
 しかし、マーカムは、ウィリアムソンが行方不明になり死亡が確認されない場合は、彼の妻ジェニファーが彼の遺産を自由につかえるようになることを知っていた。マーカムは、ウィリアムソンを殺害し、死体を永久に葬りさることを画策する。

コロンボはいつどこでピンときたか

 空港に放置されていたウィリアムソンの自動車の中で、カントリー音楽のカセットテープを聞いていたとき。
 ウィリアムソンがもっていたカセットテープはすべてカントリー音楽のテープであり、彼はカントリー音楽しか聞かない。しかし、カーラジオをみると、クラシック音楽専用チャンネルにセットされている。つまり、この車を運転してきた人はクラシックを聞いていた。ウィリアムソンではない別人が、この車を運転して空港までやってきたはずである。これは殺人事件であるにちがいない。

犯行を裏付ける事実

 ウィリアムソンはモス医師に診察の予約をいれていたのにいなくなった。ウィリアムソンは外国へ行ったようだが、どこの乗客名簿にも彼の名前がない。
 マーカムは、ウィリアムソンがいなくなる前日に彼に会っていた。マーカムはクラシック音楽をいつもきいていた。マーカムの事務所にあった近未来都市「ウィリアムソン・シティー」の模型がウィリアムソンによってこわされていた。マーカムが建設しているビルのコンクリート・パイル(杭)の下に死体をかくすことができる。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボが「パイルD-3」をほりかえした夜、マーカムは、ウィリアムソンの死体を車のトランクにいれて、工事現場に はこんでくる。そして、トランクから死体をおろそうとした瞬間、ライトが光る。
「こんばんは、マーカムさん。ウィリアムソンですな(Good evening, Mr.Markham. Beau Williamson?)」(コロンボ)
「すっかり見透かされていたようだ(You were ahead of me all the way, weren't you?)」(マーカム)
「長年の勘ですよ(Well, I kinda had a hunch)」(コロンボ)
 マーカムは、一度ほりかえしたところこそ死体のかくし場所として最適だとかんがえていた。
「おんなじところを二度はさがさないからね(Why would we look in the same place twice?)」(コロンボ)
 しかしコロンボは、マーカムの行動を予見し、まちぶせをしていたのである。

解説:決定的瞬間を準備する

 マーカムは、
「パイルD−3。死体をかくすには絶好の場所だ(Pile D-3. Well, it’s such a marvelous place to hide a body)」
と言い、コンクリート・パイルの下に死体をうめてしまえば、死体は永遠に発見されないことをコロンボにわざと教示する。そして、証拠もなしに人を殺人犯にはできないと言い、法律の「壁」を強調する。
 コロンボはこたえる。
「ああ、知ってます。だから何とかして、コンクリートの壁をやぶる腹なんです(Yeah, I know. Say, I figure I gotta come up with something concrete)」
 こうしてコロンボは、「パイルD−3」を苦労してほりかえした。
 しかし、何も出てこなかった。
「すいませんでした。余計な手間かけて(Mr.Markham, I think I owe you an apology)」(コロンボ)
コロンボはうなだれて帰路につく。マーカムはその姿をしっかり確認する。
 マーカムは、コロンボに「パイルD−3」をほりおこさせるように罠をかけた。工事現場において、一度ほったところを再度ほるのは不可能であるからである。しかしコロンボは裏をかいていた。コロンボはマーカムの巧妙な計画をすべて見抜き、わざとその罠にはまり、大失敗したように見せかけた。大芝居をうったのである。
 最初は、罠を仕掛けたのはマーカムであるかのように見えたが、実は、コロンボの方がマーカムに罠を仕掛けていたのである。彼がどのような計画をもっているか、コロンボは十分に認識し、彼がこれからどのような行動にでるかを完全に予測していた。
 この事件では、死体があがっていなかった。死体をあげない、つまり死亡を確認させないことこそがマーカムの目的である。したがって事件解決のためには、どうしても死体をあげなくてはならない。死体を確実におさえるために、コロンボはその決定的瞬間を準備し、そしてそれを待っていたのである。コロンボの作戦勝ちであった。


tanokura.net 2005年12月25日発行
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