推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
08.死の方程式 “SHORT FUSE”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ロジャー=スタンフォードが、時限爆弾を暗室で製造している。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル (2)暴かれた悪業 (3)時限爆弾 (4)コロンボ登場 (5)現場検証 (6)消えた葉巻ケース (7)ロジャーの大芝居 (8)発見された葉巻ケース (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 化学製品会社の社長バックナー(被害者)は、会社を他社に譲渡する計画をすすめており、そのためには、同社創業者の一人息子で甥のロジャー=スタンフォード(犯人)を会社から追放する必要があった。バックナーにとって、仕事をしないロジャーは邪魔な存在でしかなかった。
 このままでは、ロジャーは、創業者の息子であるにもかかわらず会社をはなれなければならない。ロジャーは、現社長バックナーを殺害し、自分が社長の椅子にすわることを画策する。

コロンボはいつどこでピントきたか

 社長のバックナーが行方不明になった夜、バックナー邸において留守番電話の録音をロジャーと一緒にきいたとき。
 その録音は、バックナーが移動中の車から話した夫人へのメッセージであったが、バックナーが葉巻の箱をあけるときの様子も録音されていた。それをきいていたロジャーは腕時計にしきりに目をやっている。そのしぐさはとても不自然だ。動揺もしているようだ。ロジャーには何かあるにちがいない。

犯行を裏付ける事実

 ロジャーは化学エンジニアであり、爆弾をつくることができる。社長バックナーがのっていた車は爆破された可能性があり、爆弾は、葉巻箱の中に仕掛けられていたらしい。ロジャーは葉巻箱をぬすむことができた。ロジャーは高級葉巻をもっていた。ロジャーは、社長バックナーの運転手クインシーのタイプをつかって報告書を捏造する機会があった。ロジャーは写真の技術にもくわしかったため、社長バックナーと秘書ベティとの関係をしめす合成写真を捏造することができた。ロジャーは、副社長ローガンと秘書ベティを会社から追放するように仕組んだ。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボとロジャーと副社長ローガンの3人がのったロープウェイが頂上へむかってのぼっていく。コロンボは、現場から発見されたという「重大物件」の包みをあける。出てきたのは、すこし焦げた社長の葉巻箱だった。
 そしてコロンボは、自分の推理をロジャーに話して聞かせる。ロジャーはおちつかない様子になり、腕時計をチラチラのぞきはじめる。
「実を言うと、あたしゃあんたが爆薬を仕掛けたもんとねらいをつけてたんだ。このケースにね。犯人があなただとすると計算がピタリとあうんだがなぁ。そう数学だよ。こいつは死の方程式だ(Do you know? I had a whole theory worked out how you could’ve fixed this box here. This whole thing could’ve been a plan of yours. The trouble is, even if I was right… )」
 するとロジャーはさげぶ。
「うるさいな!爆発する。はやくそいつをほうりだすんだよ。よこしてくれ。はやく!(Shut up! Oh, my… We have got to get rid of that box! Give me that box! Aaagh, give me that…)」
ロジャーはとりみだして葉巻箱をとりあげ、必死になって中の葉巻をチェックしはじめる。ロジャーは、自分のつくった爆弾がその中に入っているとおもった。ロジャーのこの行動は、彼が爆弾を仕組んだ、つまりロジャーが犯人であることの証拠となった。
 実は、その葉巻箱は、副社長ローガンのオフィスからもってきたもので爆弾は入っていなかった。コロンボは、ロジャーに爆弾だとおもわせ、爆弾を処理する行動を彼におこさせるためにわざとロープウェイにのったのであった。

解説:実験の名手・コロンボ

 ロジャーは化学者であり、高度な知能をもった専門家である。この点で彼は、ほかのエピソードの犯人とおなじである。しかし彼は、子供っぽく短気で社会性がない。この性格の点では、ほかのエピソードの犯人とは非常にことなっていておもしろい。
 コロンボは、そんな相手をよく観察してすべてを見通す。そして、決着をつける場所としてロープウェイのゴンドラの中をえらぶ。ロープウェイに一度のってしまえばもうどこにも逃げられない。そこは閉ざされた空間であり、心理効果をうみだすにはもっともよい場所である。
「なかなかいいもんですな。ロープウェイって(Yeah, your aunt put me on this contraption)」(コロンボ)
 ゴンドラは次第に上昇していく。コロンボは、ゴンドラの上昇とともに、ロジャーに徐々に刺激をあたえていく。
「ロジャーさん、真実はおおいがたいものだよ。どうあがいても、十重二十重にかくしてもいつかはひょっこり顔をだす(You know something, Roger? The truth is hard to find. Sometimes… sometimes it’s right in front of you and you can’t prove it)」
 そして、彼がつくった殺人の「方程式」もといてみせる。
 時間がたつにつれて、ロジャーの反応は大きくなり、彼はあせり、とりみだし、とうとう爆発する。
 コロンボは、小さい労力で、ロジャーから最大限の反応をひきおこすことに成功した。その反応は、移動するロープウェイのゴンドラという閉鎖空間だったか らこそ極限に達したのである。そこはいわば「閉じた実験室」であった。コロンボは化学者顔負けの「実験の名手」でもあったのである。


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2005年12月25日発行
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