推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
03.構想の死角 “MURDER BY THE BOOK”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 高層ビルのオフィスでジム=フェリスがタイプライターをうっている。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル (2)遠く離れた殺人 (3)コロンボ登場 (4)コロンボ、オムレツの腕前 (5)ゆすられたフランクリン (6)脅迫者には死を (7)昨夜のアリバイ (8)構想の死角 (9)エンド・クレジット

犯行の動機

 ジム=フェリス(第1被害者)ケン=フランクリン(犯人)は、コンビをくんでミステリーシリーズ『メルビル夫人』を発表し、ペストセラー作家としての地位と名声を手にいれていた。しかし、ジムは、これからはシリアスな小説を書きたいと、コンビの解消を言いだしていた。
 実は、『メルビル夫人』のすべての原稿はジムが書いたものであり、ケンは交渉やPRをやっていたにすぎなかった。ジムにコンビを解消されると、そのことがばれてしまう。また、ケンは金にもこまっており、ジムとケンはおたがいに生命保険をかけていた。
 ケンは、ジム殺害を決意する。

コロンボはいつどこでピントきたか

 ジムの自宅で、ケンに出会ったとき。
 ケンは、連絡をうけて、サンディエゴから車をとばしてかえってきたと言った。しかし、サンディエゴからいそいでくるなら飛行機を利用した方が速いはずである。どうしてケンは車でかえってきたのだろうか。ひっかかる。

犯行を裏付ける事実

 『メルビル夫人』はジムが一人で書いており、ケンは、インタビューや交渉などを担当しているだけで1行も書いていなかった。
 ケンは、友人を失ったのにとりみだすことがなかった。
 犯行現場に死体がのこされていなかった(殺し屋の仕業なら死体をかくす必要はない)。犯罪組織のボスのリストが記載された紙に、内ポケットに入るように折れ目がついていた(タイプをうって、どうして紙を折ってから引き出しにいれたのか)。
 ケンは、ジムの死体が発見されたことをコロンボに電話したとき、請求書などの郵便をみながら電話していた(こんな非常な事態であるのに請求書をみながら電話するのは変だ)。
 ケンは、サンディエゴの別荘にシャンペンを2本もっていった。サンディエゴの食料品店の女主人ラ=サンカ(第2被害者)が死亡した夜、サンディエゴのケンの別荘にコロンボが電話をしたのだったが、ケンは不在だった。ラ=サンカには外傷があった。ラ=サンカの家にシャンペンの栓がおちていた。ケンは、ラ=サンカは知り合いではないと言ったが、ラ=サンカの家にケンのサイン入りの本があった。ラ=サンカが死亡する前に、ケンは1万5千ドルを銀行からおろし、ラ=サンカの死亡後すぐにそれを元にもどした。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 コロンボはケンに言う。
「わかったことは、最初の、巧妙な犯行はあんたの発案じゃない。2番目の間の抜けたのが自作だってね。あまりにも差が大きい(I got it. The first one, the clever one, that wasn’t yours. The second one, the sloppy one, that was yours. But not the first)」
 そして、ジム殺害のトリックとまったくおなじことが書かれた、ジムのメモをしめして読みあげる。
 ケンは自白においこまれる。
 コロンボは、ジム殺し(第1の事件)のトリックは実にみごとであったのに対し、ラ=サンカ殺し(第2の事件)はあまりにもお粗末であることに注目した。一方で、人気推理小説『メルビル夫人』はすべてジムが書いたものであり、ジムはすぐれたトリックをおもいつくとかならずメモをとる習慣があったことも知った。
 これらのことから、第1の事件のみごとなトリックはジムのものであり、第2のお粗末な殺しはケンの自作だとかんがえ、そうだとするならば、ジム殺しのトリックのメモがのこされているはずであると推理したのだった。
 ケンにとっては、ジムがメモをのこしておいたのは想定外のことだった。

解説:聞き取りによりヒントをえる

 犯人を逮捕するには状況証拠だけでは不十分であり、決定的な証拠が必要である。これは事件解決の基本中の基本である。このエピソードではこのことをコロンボみずからがジムの夫人にかたっている。
「状況証拠としては、まぁかなり有力なのがそろってるけど、もう一つこれといった決め手に欠けてるんです。これじゃ逮捕は無理だ(I’ve got a pretty strong circumstantial case, It’s just not enough. If I had one piece of hard evidence, I could nail this fella)」
 そしてコロンボは、ジムの夫人に協力をもとめ、夫人に自由にかたってもらい、一見関係ないようなことにも熱心に耳をかたむける。
「どんなことでもいいから話してください。何でも結構。その中からヒントをつかむんです(I want you to tell me about them. Anything… Just talk. Whatever comes into your mind)」
 これは、調査における聞き取り方法の基本である。最初から関係のあることのみをねらっていくのではなく、一見関係のないことにも耳をかたむける。この関係のないようなことの中に、事件の本質を理解する重要なヒントがかくされている。
 こうして、今回の犯行のアイデアを発案する段階において、その良し悪しに大きな差がそもそもあり、それが、2つの事件の出来不出来としてはっきりあらわれたことに気がついた。コロンボは、一見関係のない周辺情報をさぐりながら、犯人の目がゆきとどかない盲点を発見し、事件を解決したのだった。
 しかし、ケンによると、ジム殺しのトリックはケンの唯一のすぐれたアイデアであり、5年前にジムに話したものだという。
 ケンは、ジムがアイデアをメモしているのは知っていたが、他人のアイデアもメモしてのこしておくということまではまったく想定していなかった。ケンにとってそれはアイデアの「死角」だった。実際の事件は、推理小説とはちがい筋書き通りにはいかないものである。

 

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2005年12月25日発行
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