推理と対決 -『刑事コロンボ』研究 -
01.殺人処方箋 “PRESCRIPTION: MURDER”
目 次
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まえがき
01.殺人処方箋
02.死者の身代金
03.構想の死角
04.指輪の爪跡
05.ホリスター将軍のコレクション
06.二枚のドガの絵
07.もう一つの鍵
08.死の方程式
09.パイルD-3の壁
10.黒のエチュード
11.悪の温室
12.アリバイのダイヤル
13.ロンドンの傘
14.偶像のレクイエム
15.溶ける糸
16.断たれた音
17.二つの顔
18.毒のある花
19.別れのワイン
20.野望の果て
21.意識の下の映像
22.第三の終章
23.愛情の計算
24.白鳥の歌
25.権力の墓穴
26.自縛の紐
27.逆転の構図
28.祝砲の挽歌
29.歌声の消えた海
30.ビデオテープの証言
31.5時30分の目撃者
32.忘れられたスター
33.ハッサン・サラーの反逆
34.仮面の男
35.闘牛士の栄光
36.魔術師の幻想
37.さらば提督
38.ルーサン警部の犯罪
39.黄金のバックル
40.殺しの序曲
41.死者のメッセージ
42.美食の報酬
43.秒読みの殺人
44.攻撃命令
45.策謀の結末
考察 -コロンボの方法-
参考文献
作品評価

キーイメージ

 ジョーン=ハドソンが、フレミング夫人のキャロルに変装する。

DVDチャプターリスト

(1)メイン・タイトル (2)精神科医の秘密 (3)殺人計画 (4)偽装工作 (5)コロンボ登場 (6)コロンボの疑問 (7)ジョーンの不安 (8)心理ゲーム (9)追い詰めたコロンボ (10)共犯者の死 (11)精神科医の正体 (12)エンド・クレジット

犯行の動機

 精神科医レイ=フレミング(主犯)と彼の患者でわかい女優のジョーン=ハドソン(共犯者)は愛人関係になっていた。フレミング夫人のキャロル(被害者)は、夫に愛人がいることに気がつき、夫としての義務を果たさないなら、離婚して、スキャンダルを公表すると言いフレミングをおどしていた。実はフレミングは、キャロルの財産目当てに結婚していたのであり、離婚は絶対にできなかった。
 フレミングは、キャロルには死んでもらうしかないとかんがえ、強盗をよそおった殺人を画策する。

コロンボはいつどこでピンときたか

 フレミング夫人が搬送された病院でバート検事と話していたとき。
 コロンボは、フレミングが、アカプルコから自宅にもどってきてドアをあけたときに無言だったことをおもいだしていた。普通なら、帰宅したときには「ただいま」などと言って夫人をよぶはずである。フレミングの行動は不自然である。

犯行を裏付ける事実

 フレミングがアカプルコへもっていったスーツケースは、行きは6キロオーバーだったのに、帰りは2キロのみオーバーだった(減った4キロは医学雑誌だったとフレミングは言う)。
 フレミングがアカプルコから帰宅した直後に電話をかけてきたのは、フレミングの患者ジョーンであった。事件当日キャロルがしていたとされる手袋が見つからなかったが、引き出しから見つかったとフレミングは言った。
 コロンボを捜査からおりさせるように、フレミングは圧力をかけた。ジョーンは、コロンボが捜査をおろされたことをフレミングから聞いたと言った(先週以来フレミングに会っていないと言ったことと矛盾する)。ジョーンは、コロンボの前でフレミングのことを「レイ」とよんだ(二人は愛人関係にある)。

コロンボはいかにして決着をつけたか

 フレミングがジョーンの自宅にかけつける。すると、ジョーンがプールから引きあげられたところだ。コロンボはフレミングに言う。
「あの人はあんたをまもるために自殺したんだ(She committed suicide for one reason to protect you!)(コロンボ)
 コロンボは、あなたの勝ちだと言い、愛していた人が死んだのだから自白したらどうかとフレミングにせまる。するとフレミングはコロンボをせせらわらい、愛してなどおらず、結婚する気もなかったと言う。
「でも殺しに手をかしたんだから結婚しなきゃならんでしょう(She helped you with the murder. You would've had to marry her)」(コロンボ)
「そうとはかぎらんさ。解決法はいくらでもある。事故で死ぬこともありうるし(Not really. Something would have been arranged. Like an accident, maybe)」(フレミング)
 そのとき突然ジョーンの声がする。フレミングはおどろいてふりかえる。コロンボはうなずく。実は、プールから引きあげられた女性は「替え玉」だったのである。そうとうは知らずにフレミングは、これで事件はおわったとおもい、自分の正体をさらけだしてしまった。それを知った共犯者ジョーンは供述をはじめる。
 コロンボは、フレミングがアリバイづくりのためにつかった手法とおなじ「替え玉」をつかってフレミングをだました。フレミングは罠に はまっていたことにまったく気がついていなかったのである。

解説:判断から実行へ

 精神科医フレミングは言っていた。
「人は固定観念によって物を見る。これが連想の基本さ(People see what they expect to see. It's the principle of association)」
 人は固定観念をもっており、それが先入観になって判断をくだしてしまう。これがフレミングのトリックの本質である。フレミングは先入観を利用し、それにいくつものテクニックをくわえて画策をした。フレミングは、きわめて知的・緻密な計画殺人者である。立案し、計画し、危険を最小限にし、感情ではなく理性によって行動する。
 しかしコロンボは、フレミングに対峙してこうのべる。
「たとえば今のその殺人犯にしてもです。頭はいいが、素人ですからね。一遍こっきりしか経験してないわけです。ところがあたしらにとって殺しとは、仕事でしてね。年に100回は経験してます。ねえ先生、こりゃ、たいした修練です(I mean, you take our friend, this murderer. He's very smart, but he's an amateur. I mean he's got just one time to learn, just one. With us...well, it's a business. You see, we do this a hundred times a year. I tell you Doc, that's a lot of practice)」
 犯人がいかに利口でも、殺しにかけては素人である。しかしコロンボは、場数をふんでいる点ではまけないと言ったのであり、経験や実践、行動力や実行力においては、知能犯にまさるということを予言したのである。
 フレミングが犯人であるという判断はすでについていた。あとは、いかに逮捕するかである。コロンボはかんがえた。フレミングにとっての唯一の弱点は共犯者ジョーンである。その唯一の弱点がなくなれば、彼は本性をあらわすはずであると。
 そして、「替え玉」をつかったプールのトリックを実行したのである。コロンボはフレミングのトリックの本質をよく理解していた。理解していただけではなく、実行した。つまり、まず彼に先入観をもたせ、次に自白をせまって彼の正体をひきだしたのである。
 コロンボの最後の行動は、コロンボが、捜査という段階から犯人逮捕という次の段階へふみだしたことを意味する。第1の段階は判断の段階、第2の段階は実行の段階と言ってもよい。第1段階では推理力が重視されるが、第2段階では実行力が必要になる。ここに、コロンボが単なる秀才ではなく、修練をつんだ実践家でもあることがしめされている。
 コロンボの相手は、知能が高く、緻密で、学歴のある専門家である。コロンボはその相手と対決しながら推理をすすめていく。そして、行動をおこし相手をけしかける。最後のクライマックスは、勝負をかけた場面である。
 今回のエピソードには、判断から実行へ、推理から勝負へというコロンボの原点がはっきりとあらわれていた。


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2005年12月25日発行
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